最新情報
- 2012年5月15日取引の個数・分断・一連計算
- 過払い金充当合意を含む基本契約に基づく取引であっても,過払い金発生時から利息を支払わなければならないとした判例(最二小判平成21年9月4日)
- 2012年5月14日取引の個数・分断・一連計算
- 過払金の取引の分断・消滅時効と過払い金の利息の関係とは?
- 2012年5月13日取引の個数・分断・一連計算
- 過払い金における取引の分断と消滅時効の関係とは?
- 2012年5月10日取引の個数・分断・一連計算
- 自動契約継続条項があることのみで取引の一連性を認めることはできないとした判例(最一小判平成23年7月14日)
- 2012年5月9日取引の個数・分断・一連計算
- 分断した取引を一連充当計算できる場合(まとめ)
過払い金充当合意を含む基本契約に基づく取引であっても,過払い金発生時から利息を支払わなければならないとした判例(最二小判平成21年9月4日)
過払い金の利息の発生時期
過払い金返還請求権も,法的には不当利得返還請求権ですから,貸金業者が悪意の受益者に当たる場合には,過払い金に利息を付して返還するように請求できます。
もっとも,仮に貸金業者が悪意の受益者に当たるとして,この過払金の利息がどの時点から発生するのかというのは,また別の問題になってきます。
この問題については,個々の支払いによって過払い金が発生する都度,その時から過払い金に対して利息も発生するという考え方と,取引が終了した時から,その時点において発生した過払い金全体に対して利息も発生するという考え方があります。
この点,最一小判平成21年1月22日は,過払い金充当合意を含む基本契約に基づく取引における過払い金返還請求権の消滅時効は,取引終了時から進行するという判断をしました。
つまり,一連充当計算できる取引の場合には,個々の支払いにより過払い金が発生する都度,個別に消滅時効が進行するというのではなく,取引が終了した時から,その時点において発生していた過払い金全体の消滅時効が進行するという判断をしたのです。
これに対しては,貸金業者から反論がなされました。どのような反論かというと,過払い金の消滅時効の起算点を取引終了時とするなら,過払い金の利息の発生時期も取引終了時からとすべきであるというものです。
今回ご紹介する最高裁判所第二小法廷平成21年9月4日判決(最二小判平成21年9月4日)は,この貸金業者側からの反論に対して答えたものとなっています。
最二小判平成21年9月4日
最二小判平成21年9月4日は,以下のとおり判示しています(一部抜粋)。
金銭消費貸借の借主が利息制限法1条1項所定の制限を超えて利息の支払を継続し,その制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生した場合において,貸主が悪意の受益者であるときは,貸主は,民法704条前段の規定に基づき,過払金発生の時から同条前段所定の利息を支払わなければならない(大審院昭和2年(オ)第195号同年12月26日判決・法律新聞2806号15頁参照)。このことは,金銭消費貸借が,貸主と借主との間で継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される旨の基本契約に基づくものであって,当該基本契約が過払金が発生した当時他の借入金債務が存在しなければ過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものであった場合でも,異なるところはないと解するのが相当である。
→ 上記判決の全文(裁判所HPから)
最二小判平成21年9月4日は,その前段において,かなり古い判例ですが大審院昭和2年12月26日判決を引用し,利息制限法所定の制限利率を超える利息を支払い続けた結果,過払い金が発生した場合には,その過払い金発生時から利息を支払わなければならないということを確認しています。
そして,その上で,過払い金充当合意が認められる継続的な金銭消費貸借取引,つまり,一連充当計算のできる取引の場合であっても,過払い金発生時から利息を支払わなければならないことに変わりはないという判断を示しました。
すなわち,前記の2つの考え方のうち,個々の支払いによって過払い金が発生する都度,その時から利息も発生するという考え方を採用したのです。
過払い金の消滅時効は,取引終了時からと解した方が,消滅する過払い金が少なくなるため,消費者に有利です。他方,過払い金の利息は,過払い金発生時から個別に発生すると解した方が,期間が長くなり利息も大きくなるので,消費者に有利です。
つまり,最高裁判所は,前記最一小判平成21年1月22日では消滅時効の起算点は取引終了時とし,この最二小判平成21年9月4日では過払い金の利息の発生時期は個々の過払い金発生時とすることで,いずれの場合にも,消費者側に有利な判断をしているということがいえるのです(ただし,この前提となる,過払い金充当合意があるかどうかについては,最二小判平成20年1月18日などのように,さほど消費者に明らかに有利といえるような判断はしていません。)。
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2012年5月15日
カテゴリー:取引の個数・分断・一連計算 過払い金の利息 過払い金返還請求権の消滅時効 過払い金重要判例 過払い金(過払金)
過払金の取引の分断・消滅時効と過払い金の利息の関係とは?
過払金の消滅時効と過払金の利息
過払い金返還請求における大きな争点として,取引の分断・取引の一連性の問題,過払い金の消滅時効,過払い金の利息という問題があります。
取引の分断・取引の一連性の問題とは,ある貸金業者から借入れ取引をし,それを完済した後に,一定の中断期間をおいて,再び借入れをして取引を再開したという場合に,この中断期間を経て分断している取引をすべて一連のものとして,一連充当計算することができるのかという問題です。
過払い金の消滅時効の問題とは,過払金も返還を請求する権利(過払い金返還請求権)がいつになったら時効によって消滅してしまうのかという問題です。時効により消滅すると,過払い金の返還を請求することができなくなります。最一小判平成21年1月22日によれば,過払金返還請求権は,取引終了時から10年を経過すると時効により消滅すると解されています。
他方,過払い金の利息の問題とは,過払い金の元本に利息を付けて返還を請求できるかどうかという問題です。この点については,貸金業者が「悪意の受益者」に当たる場合には,その貸金業者に対して過払金の利息も一緒に請求できることになります。
消滅時効の起算点と利息の発生時
前記3つの争点は,基本的には別個の争点です。
もっとも,前回ご説明したとおり,取引の一連性の問題と消滅時効の問題は関連してくる場合があります。
さらに,この取引の一連性の問題・過払金返還請求権の消滅時効の起算点をどのように解するかという問題と,過払い金の利息はどの時点で発生するのかという問題が関連してくる場合があります。
過払い金というものは,利息制限法の制限超過部分を元本に充当していった結果,計算上元本が完済となった後も,さらに制限超過利息を支払っていた場合に発生することになります。つまり,制限超過利息の支払いの都度発生するものです。
このように,個別の支払いごとに過払金が発生するのであれば,この個別の支払いによって過払い金が発生するごとに,それに対する利息も発生し,また,その個別の支払いの時から時効期間が進行する(個別の支払い時を起算点とする)ということになりそうです。
しかし,前記のとおり,最一小判平成21年1月22日は,過払い金の消滅時効の起算点について,過払い金充当合意が認められて一連充当計算できる場合には,個別の支払い時ごととはせずに,取引の終了時としました。
これに対しては,貸金業者側から,消滅時効の起算点を取引終了時とするならば,利息の発生時期も,個別の支払い時ごとではなく,取引の終了時から利息が発生するというようにしなければ整合性がとれないはずであるというような反論がなされていました。
そこで,最高裁判所は,この反論に答える判断を下しました。それが,最二小判平成21年9月14日です。この判決は,過払い金充当合意がある取引については取引の終了時が消滅時効の起算点となることを前提として,そのような過払い金充当合意がある取引であっても,過払い金発生時(個別の支払い時)から利息を支払わなければならないとしました。
消費者側からすれば,過払い金返還請求権の消滅時効の起算点は,取引終了時と解した方が有利ですし,利息については,個別の支払い時ごとに発生すると解した方が有利です。その点からみれば,最高裁は,消滅時効と利息については,消費者側に有利な判断をしてくれたといえるでしょう。
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2012年5月14日
過払い金における取引の分断と消滅時効の関係とは?
過払い金の取引の分断と消滅時効
過払金返還請求における大きな争点としては,取引の分断・取引の一連性の問題と消滅時効の問題があります。
取引の分断・取引の一連性の問題とは,ある貸金業者から借入れ取引をし,それを完済した後に,一定の中断期間をおいて,再び借入れをして取引を再開したという場合に,この中断期間を経て分断している取引をすべて一連のものとして,一連充当計算することができるのかという問題です。
他方,消滅時効の問題とは,過払い金返還請求権の消滅時効の問題です。過払金返還請求権は10年で時効により消滅しますが,この10年の消滅時効期間の起算点をどの時点と考えるのかが問題となってきます。
この2つの問題は,それぞれ別個の問題ではありますが,密接に関連してくる場合もあります。
過払金返還請求権の消滅時効の起算点は,取引終了時と解されています(最一小判平成21年1月22日)。したがって,取引終了時から10年が経過すると過払い金返還を請求できなくなってしまいます。
ここで問題となってくるのが,取引が分断している場合です。すなわち,取引が分断している場合で,第1の取引の終了時からするとすでに10年を経過しているが,第2の取引の終了時からはまだ10年が経過していないという場合にどのように取り扱うべきかということが問題となってくるのです。
判例の考え方
前記のように,取引が分断している場合で,第1の取引の終了時から10年を経過しているということは,この第1の取引で発生した過払い金はすでに時効により消滅しているということになり,まだ10年が経過していない第2取引で発生した過払金しか返還を請求できないということになりそうです。
もっとも,前記最一小判平成21年1月22日は,過払い金充当合意が認められ,第1取引と第2取引とを一連充当計算できる場合には,両取引を通算しての取引終了時(第2取引の終了時)を全部の過払い金の消滅時効の起算点という判断をしています。
つまり,前記の例でいえば,過払金充当合意が認められて第1取引と第2取引とが一連充当計算できるのであれば,消滅時効の起算点は第2取引の終了時となり,第1取引と第2取引を通算して一連充当計算した結果の過払い金については,時効によって消滅していないことになるということです。
したがって,過払金の消滅時効と取引の分断・取引の一連性の問題は,取引が分断している場合,密接に関連してくるのです。特に,上記の例のように,分断した取引のうちでその取引終了時から10年が経過しているものがある場合には,取引の一連性も関連して争われることになってきます。
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2012年5月13日
自動契約継続条項があることのみで取引の一連性を認めることはできないとした判例(最一小判平成23年7月14日)
自動契約継続条項と取引の一連性
貸金業者との契約においては,自動契約継続条項という条項が入れられている場合があります。
自動契約継続条項とは,契約期間が経過してしまっても,当事者から申し出がなければ,その契約は自動的に継続されるという条項です。
普通に考えると,申し出がなければ契約が自動的に継続されるという条項があるのですから,申し出がない場合には契約が継続され,例え,その間に取引が分断していても,その分断した各取引は1つの契約に基づいて行われたものであるということになりそうです。
しかし,最高裁判所はこれとは異なる考え方をとりました。それが,今回ご紹介する最高裁判所第一小法廷平成23年7月14日判決(最一小判平成23年7月14日)です。
最一小判平成23年7月14日
最一小判平成23年7月14日では,以下のとおり判示されています(一部抜粋)
3 原審は,上記事実関係の下において,基本契約1ないし3には本件自動継続条項が置かれていることから,基本契約1に基づく最終の弁済から基本契約2に基づく最初の貸付け,基本契約2に基づく最終の弁済から基本契約3に基づく最初の貸付け及び基本契約3に基づく最終の弁済から基本契約4に基づく最初の貸付けまでの各期間のいずれにおいても,2年ごとの契約期間の自動継続がされていたとして,上記各期間を考慮することなく,基本契約1ないし4に基づく取引は,事実上1個の連続した貸付取引であり,基本契約1ないし3に基づく取引により発生した各過払金をそれぞれ基本契約2ないし4に基づく取引に係る借入金債務に充当する旨の合意(以下「本件過払金充当合意」という。)が存在すると判断して,原告の請求を認容した。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約(以下「第1の基本契約」という。)が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず,その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約(以下「第2の基本契約」という。)が締結され,第2の基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第2268号同20年1月18日第二小法廷判決・民集62巻1号28頁)。そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である(前記第二小法廷判決)。
しかるに,原審は,前記事実関係によれば,基本契約1に基づく最終の弁済から基本契約2に基づく最初の貸付け,基本契約2に基づく最終の弁済から基本契約3に基づく最初の貸付け及び基本契約3に基づく最終の弁済から基本契約4に基づく最初の貸付けまで,それぞれ約1年6か月,約2年2か月及び約2年4か月の期間があるにもかかわらず,基本契約1ないし3に本件自動継続条項が置かれていることから,これらの期間を考慮することなく,基本契約1ないし4に基づく取引は事実上1個の連続した取引であり,本件過払金充当合意が存在するとしているのであるから,この原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記特段の事情の有無等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
→ 上記判決の全文(裁判所HPから)
この判例の事案は,取引が4つに分断されており,各取引は,それぞれ別個の基本契約(上記判決にいう基本契約1から4)に基づいています。いわゆる非基本契約取引中断型です。ただし,基本契約1から3までについては,それぞれ自動契約継続条項が置かれているという事案です。
この最高裁の原審(名古屋高等裁判所平成22年11月11日判決)は,自動契約継続条項が置かれている以上,基本契約1から4までに基づく4つの取引は「事実上1個の連続した貸付取引」であり,過払い金充当合意が認められるので,すべての取引を一連充当計算できるという判断をしています。
これに対し,最一小判平成23年7月14日は,最二小判平成20年1月18日を引用して,同判例のいわゆる6要素(7要素という場合もあります。)を挙げ,非基本契約中断型の場合には,この6基準を用いて判断すべきであり,それをしていない以上,原審判決には法令違反があるという判断をして,原審を破棄しました。
つまり,この最高裁判決は,自動契約継続条項は,取引の一連性判断においては問題とならないという判断を示したということです。
これにより,最高裁は,1つの基本契約に基づかない取引の分断の場合には,あくまで,上記6要素によって判断すべきであるというスタンスを堅持していることが明らかになりました。
その理由は,以下の金築誠志裁判官の補充意見が分かりやすいです。
法廷意見が引用するように,最高裁平成20年1月18日第二小法廷判決は,中断期間を置いて複数の基本契約に基づく貸付取引が存在する場合に,事実上一個の連続した取引であると評価できるか否かは,取引の中断期間等のいわゆる6要素を考慮して決定されるべきものとしている。自動継続条項が存在することを主要な理由として取引の一連一体性を認める原審の見解によれば,中断期間の長短などは問題にならなくなるのであるから,原審の見解が上記判決の趣旨に沿わないことは明らかであろう。貸金業者の締結する金銭消費貸借基本契約に,本件と同様の自動継続条項が盛り込まれている場合が多いことは,当裁判所に顕著な事実であるところ,上記判決は,法律的には別個の基本契約が存在する場合に,これらに基づく実際の取引が中断していた期間の長短,その間における貸主と借主との接触の状況,新たな基本契約が締結されるに至る経緯といった,取引の事実上の側面に重点を置いた6要素を総合的に考慮して一個の連続した取引と評価し,充当合意を認定すべきものとするものであって,自動継続条項に基づく法律的・形式的な契約の継続は,考慮に加えるべき重要な要素として位置付けていないと解される。新たな取引とみるかどうかについて,このように事実上の側面に重点を置くことは,消費者等の取引当事者の通常の見方にも合致するように思われる。また,本判決の考え方は,過払金返還請求権の消滅時効の起算点を,特段の事情がない限り取引終了時とし,自動継続条項による基本契約の効力継続の点を問題にしていない,最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・民集63巻1号247頁とも,整合的であると考えられる。
前記のとおり,普通に考えると,自動契約継続条項がある以上,契約に基づく各取引も一連になるように思われますが,上記補足意見のとおり,最高裁は,契約という法律的・形式的なものよりも,現実の取引の態様の方を重視するということです。
この判例は,消費者側に必ずしも有利とはいえないですが,契約条項にかかわらず,前記6基準が挙げる現実の取引状況から「事実上1個の連続した貸付取引」といえるかどうかを判断するというのが,最高裁判所のスタンスであるということが明らかにしたという点では意味がある判例といえるでしょう。
ただし,今後,仮に契約条項に貸金業者側に有利な条項があったとしても,この判決が示すように,最高裁は事実的側面を重視しているというスタンスが維持されるならば,消費者側に有利にも用いることができる可能性のある判例であるともいえます。
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2012年5月10日
カテゴリー:取引の個数・分断・一連計算 過払い金重要判例 過払い金(過払金)
分断した取引を一連充当計算できる場合(まとめ)
取引の分断・一連充当計算
過払い金返還請求において最も争われる問題は,取引の分断(取引の一連性)の問題です。
これは,ある取引における借入を完済した後,一定の中断期間をおいて,再度同じ貸金業者と取引をして借入れをしたという場合に,この分断された個々の取引をすべて一連のものとして引き直し計算(一連充当計算)できるのかという問題です。
一連充当計算した方が,通常過払い金の金額は大きくなります。そのため,消費者側は一連充当計算を主張し,貸金業者側は分断を主張(要するに,取引を別々に計算するように主張)することになります。
判例の考え方の基本
これまでご紹介してきたように,取引の分断に関しては重要な判例がいくつかあり,それらの判例の積み重ねによって,取引分断の判断の基準は概ね示されてきたといえます。
判例は,取引が分断している場合には,原則として一連充当計算できないものの,当事者間に「過払金充当合意」があると認められる場合には,一連充当計算できるというのが考え方の基本となっています。
したがって,分断した取引を一連充当計算できるかどうかは,過払い金充当合意があるといえるかどうかにかかっているというわけです。
どのような場合に過払い金充当合意があると認められるのかについては,基本契約の有無等によって異なってきます。
各取引が1つの基本契約に基づく場合
この場合(基本契約取引中断型)については,最一小判平成19年6月7日があります。
上記判決は,「基本契約に基づく債務の弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件各基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるもの」である場合には,「当の対象となるのはこのような全体としての借入金債務である」といえるから,過払い金充当合意があるとしています。
したがって,同一の基本契約がある場合には,上記のような債務の弁済が借入金全体に対して行われるものといえるような基本契約であれば,一連充当計算できることになるでしょう。
債務の弁済が借入金全体に対して行われるものといえるような基本契約かどうかは,具体的には,以下のような判断要素が挙げられています。
- 借入極度額の範囲内で繰り返し借入れをすることができるかどうか
- 借入れの方式が毎月一定の日に支払う方式であるか
- その返済金額が債務残高の合計を基準とする一定額に定められているかどうか
- 利息が前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算されていたものかどうか
もちろん,これが判断基準のすべてというわけではありません。この判決の事案における基本契約の要素というにすぎません。違う形式の契約であれば,また着目すべき点は異なってくるでしょう。
とはいえ,貸金業者との継続的な金銭消費貸借契約は,上記要素に当てはまるものが多いかと思います。したがって,同一の基本契約がある場合であれば,比較的一連充当計算は認められやすいということになります。
なお,仮に,基本契約が,「債務の弁済が借入金全体に対して行われるものといえるような基本契約」とはいえないような場合には,後記の1つの基本契約に基づくものでがない場合の判断基準によって一連性を判断していくことになると思われます。
各取引について1つの基本契約に基づくものでない場合
貸金業者との取引においては,取引が分断している場合,各取引ごとに何らかの個別の申込なり契約なりをしている場合が多いかと思います。
そのため,貸金業者側からの反論としては,1つの基本契約に基づくものではないから取引の一連性がないという反論が大半です。
この1つの基本契約に基づくものでがない場合(非基本契約取引中断型)のパターンとしては,そもそもまったく基本契約がない場合と,分断した各取引のそれぞれが異なる基本契約に基づくものであるという複数の基本契約がある場合とがあります。
そもそも基本契約がない場合
最一小判平成19年7月19日は,そもそも基本契約がない場合についての判例です。
この判例においては,各取引が「1個の連続した貸付取引」である場合には,過払い金充当合意があると認められるとしています。そして,その1個の取引であるかどうかについては,以下のような要素に着目しています。
- 貸付の切替・貸増として長年にわたり同様の方法で貸付が反復継続していたこと
- 分断前の取引の貸付の返済から分断後の貸付までの期間が接着していること
- 各取引の貸付の条件が同じであったこと
複数の基本契約がある場合
続く最二小判平成20年1月18日は,複数の基本契約があるという場合についての判例です。
この判例は,前記最一小判平成19年7月6日を踏襲して,分断した各取引が「事実上1個の連続した貸付取引」といえる場合には,過払い金充当合意が認められるとしました。
そして,1個の取引であるかどうかについて,より具体的な判断基準を明示しました。
- 第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さ
- 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間
- 第1の基本契約についての契約書の返還の有無
- 借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無
- 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況
- 第2の基本契約が締結されるに至る経緯
- 第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情
同一の基本契約がない場合の判断基準
このように,1つの基本契約に基づくものでない場合については,そもそも基本契約がない場合と複数の基本契約がある場合とがあります。
前記2つの判例によれば,いずれの場合であっても,分断した各取引が「1個の連続した貸付取引」といえる場合には,過払い金充当合意が認められ,一連計算できることになります。
最一小判平成19年7月19日では明確な判断基準が示されていませんが,最二小判平成20年1月18日の7基準は,そもそも基本契約がない場合にも妥当すると思われます。
したがって,そもそも基本契約がない場合でも,複数の基本契約がある場合でも,1つの基本契約に基づくものでない場合には,最二小判平成20年1月18日の7基準で取引の一連性を判断することになるでしょう。
実際の訴訟でも,基本契約がない場合と複数の基本契約がある場合とを区別せずに,1つの基本契約に基づくものでがない場合ということで括って,最二小判平成20年1月18日の7基準で取引の一連性を判断している場合が多いと思います。
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2012年5月9日
カテゴリー:取引の個数・分断・一連計算 過払い金(過払金)
第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,過払い金充当合意が存在するとした判例(最二小判平成20年1月18日)
取引の分断と過払い金充当合意
これまでにご紹介してきたとおり,過払い金返還請求における取引の分断の問題(取引中断型)については,さまざまな判例が出されてきました。
最三小判平成19年2月13日では,取引の分断について,「特段の事情」のない限り,第1の取引の過払い金はその中断後の第2の取引における借入金債務には充当されない,つまり分断した取引を一連充当計算できないのが原則である旨を明確にしました。
しかし,そのすぐ後,最一小判平成19年6月7日は,上記特段の事情として「過払金充当合意」という考え方を用い,同一の基本契約がある場合,過払い金充当合意があれば,一連充当計算できるとし,さらに,翌月の最一小判平成19年7月19日では,同一の基本契約がない場合でも,過払い金充当合意があれば,一連充当計算できるとしました。
そのため,取引の分断における問題は,どのような場合であれば過払い金充当合意があるといえるのかという点に絞られてくるようになりました。
前記最一小判平成19年7月19日は,その判断の要素として,「各貸付けが1個の連続した貸付取引」である場合には過払い金充当合意を認めることができる旨を判示していたため,どのような場合であれば過払い金充当合意があるといえるのかという問題は,すなわち,分断した取引がどのような場合に1個の連続した取引といえるのかという問題になってきます。
今回ご紹介する最高裁判所第二小法廷平成20年1月18日判決(最二小判平成20年1月18日)は,このどのような場合であれば過払い金充当合意があるといえるのか=分断した取引がどのような場合に1個の連続した取引といえるのかという問題に決着をつけることになった判例です。
最二小判平成20年1月18日
最二小判平成20年1月18日は,以下のとおり判示しています(一部抜粋)。
同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず,その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第1187号同19年2月13日第三小法廷判決・民集61巻1号182頁,最高裁平成18年(受)第1887号同19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁参照)。そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である。
→ 上記判決の全文(裁判所HPから)
上記判決は,前記の最三小判平成19年2月13日や最一小判平成19年6月7日を引用し,取引分断の場合には,過払い金充当合意があるなど特段の事情のない限り,一連充当計算できないことを明らかにしています。
その上で,同一の基本契約がない場合に,どのような事情があれば過払金充当合意があると認められるのかという点について,「第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合」には,過払い金充当合意があるという判断をしています。
そして,さらに,分断した取引が事実上1個の連続した貸付取引と評価できるかどうかについての具体的な判断基準として,以下の要素を提示しました。
- 第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さ
- 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間
- 第1の基本契約についての契約書の返還の有無
- 借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無
- 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況
- 第2の基本契約が締結されるに至る経緯
- 第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情
上記の各要素を総合的に考慮して,事実上1個の取引といえるかどうかを判断することになります。
取引の分断の実務に対する影響
この最二小判平成20年1月18日は,取引の分断という問題に対する最高裁判所の解答のようなもので,これ以降,取引の分断については,実務上,上記の7基準によって判断されるようになっています。
前記のとおり,この判決は,基本契約が異なる取引の事案ですから,非基本契約取引中断型に対する判断を示したものです。
したがって,同一の基本契約がある場合には,最一小判平成19年6月7日の考え方(同一の基本契約がある場合には基本的に過払い金充当合意があるとする考え方)を用いることができるのできます。
しかし,実際問題として,貸金業者が貸付ごとに契約書等を取り交わさせることが多く,基本契約が同一であることを証明することが難しいことや,そのような事情から裁判所も基本契約が同一であることを認定する場合が少ないことから,事実上,取引の分断が問題となる場合には,ほとんどの場合において,上記最二小判平成20年1月18日の基準を用いて主張立証していくことになっていると思います。
そのため,過払金返還請求において取引の分断を争う場合には,この最二小判平成20年1月18日の基準を用いることは必須といえるでしょう。
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2012年4月23日
カテゴリー:取引の個数・分断・一連計算 過払い金重要判例 過払い金(過払金)
別個の契約に基づく貸付であっても,各貸付取引が1個の連続した取引である場合には過払い金充当合意が認められ,一連充当計算できるとした判例(最一小判平成19年7月19日)
過払金充当合意
前回ご説明した最一小判平成19年6月7日は,同一の基本契約がある場合,過払金充当合意が認められれば,最初の取引で発生した過払い金をその後に発生した借入金債務に充当することができると判示しました。
今回ご紹介する最高裁判所第一小法廷平成19年7月19日判決(最一小判平成19年7月19日)は,さらに,基本契約がない場合でも,過払金充当合意が認められれば,最初の取引で発生した過払い金をその後に発生した借入金債務に充当することができるとした判例です。
この2つの判例により,取引中断型(分断型)の場合には,基本契約の有無にかかわらず,過払い金充当合意が認められるならば一連充当計算できる,という現在の判例の考え方が確立したといえるでしょう。
最一小判平成19年7月19日
最一小判平成19年7月19日は以下のとおり判示しています(一部抜粋)。
前記事実関係によれば,本件各貸付けは,平成15年7月17日の貸付けを除き,従前の貸付けの切替え及び貸増しとして,長年にわたり同様の方法で反復継続して行われていたものであり,同日の貸付けも,前回の返済から期間的に接着し,前後の貸付けと同様の方法と貸付条件で行われたものであるというのであるから,本件各貸付けを1個の連続した貸付取引であるとした原審の認定判断は相当である。
そして,本件各貸付けのような1個の連続した貸付取引においては,当事者は,一つの貸付けを行う際に,切替え及び貸増しのための次の貸付けを行うことを想定しているのであり,複数の権利関係が発生するような事態が生ずることを望まないのが通常であることに照らしても,制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,その後に発生する新たな借入金債務に充当することを合意しているものと解するのが合理的である。
上記のように,本件各貸付けが1個の連続した貸付取引である以上,本件各貸付けに係る上告人とAとの間の金銭消費貸借契約も,本件各貸付けに基づく借入金債務について制限超過部分を元本に充当し過払金が発生した場合には,当該過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。
→ 上記判決の全文(裁判所HPから)
この判例の事案では,複数回の借換えと,完済から3か月後の借入れ(上記平成15年7月17日の貸付け)があり,借換えや貸付けごとに新たな契約書が交わされているため,同一の基本契約がないというものです。これらをすべて一連充当計算できるのかが問題となっています。
判決では,借換えについては,あまり問題とせずに1個の取引としています。完済後の貸付けについても,完済の時から貸付までの空白期間が3か月と短く期間的に接着していることや,貸付条件も同様であることから,やはり他の取引とは1個の取引と認定しています。
そして,その上で,そのような1個の連続した取引といえる場合には,当事者は次の貸付けを想定して貸付けをしているといえること,複数の権利関係が発生する事態を望まないのが通常であることなどの理由から,従前の取引で発生した過払い金を後に発生する借入金債務に充当する合意(過払い金充当合意)があるとしました。
この,「1個の取引」といえる場合には「過払い金充当合意がある」といえる,という判断は,後の判例においても基本的なスタンスとなっています。
すなわち,同一の基本契約がない取引の分断の場合において一連充当計算できるかどうかは,当事者間に過払金充当合意があったといえるのか=複数の取引が「1個の取引」といえるのか,が判断の基本とされるようになったのです。
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2012年4月22日
カテゴリー:取引の個数・分断・一連計算 過払い金重要判例 過払い金(過払金)
過払い金充当合意がある場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しないときでも,その後に発生する新たな借入金債務に過払い金を充当することができるとした判例(最一小判平成19年6月7日)
弁済当時他の借入金債務が存在しない場合
最三小判平成19年2月13日は,複数の取引について同一の基本契約がないという事例で,その1つの取引において過払い金が発生した場合,その弁済当時(つまり,過払い金が発生した当時)に他の借入金債務が存在していないときには,その後に借入金債務が発生したとしても,特段の事情のない限り,その新たに発生した借入金債務に過払金を充当することはできないと判示しました。
上記判例は,いわゆる「非基本契約取引併存型」や「非基本契約取引中断型」について判断をしたものと考えられています。
これに対し,今回ご紹介する最高裁判所第一小法廷平成19年6月7日判決(最一小判平成19年6月7日)は,同一の基本契約がある場合で,最初の取引において発生した過払い金を,その後の取引における借入金債務に充当できるかが問題となっている事案です。いわゆる「基本契約取引中断型」に当たります。
結論としては,基本契約取引中断型(分断型)の場合,「過払い金充当合意」があれば,最初の取引において発生した過払い金を後に発生した借入金債務に充当できると判断しました。要するに,過払い金充当合意があれば,一連充当計算をすることができると判断したのです。
最一小判平成19年6月7日
最一小判平成19年6月7日は,以下のとおり判示しています(一部抜粋)。
同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に充当されると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1032号,第1033号同15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号895頁,最高裁平成12年(受)第1000号同15年9月11日第一小法廷判決・裁判集民事210号617頁参照)。これに対して,弁済によって過払金が発生しても,その当時他の借入金債務が存在しなかった場合には,上記過払金は,その後に発生した新たな借入金債務に当然に充当されるものということはできない。しかし,この場合においても,少なくとも,当事者間に上記過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するときは,その合意に従った充当がされるものというべきである。
これを本件についてみるに,前記事実関係等によれば,上告人と被上告人との間で締結された本件各基本契約において,被上告人は借入限度額の範囲内において1万円単位で繰り返し上告人から金員を借り入れることができ,借入金の返済の方式は毎月一定の支払日に借主である被上告人の指定口座からの口座振替の方法によることとされ,毎月の返済額は前月における借入金債務の残額の合計を基準とする一定額に定められ,利息は前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算することとされていたというのである。これによれば,本件各基本契約に基づく債務の弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件各基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものと解されるのであり,充当の対象となるのはこのような全体としての借入金債務であると解することができる。そうすると,本件各基本契約は,同契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,上記過払金を,弁済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより,弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。
→ 上記判決の全文(裁判所HPから)
最一小判平成19年6月7日は,まず,複数の取引について同一の基本契約がある場合,そのうちの1つの取引で発生した過払い金は,その弁済当時に存在する他の借入金債務に充当される(最二小判平成15年7月18日等)ものの,その弁済当時に他の借入金債務が存在しない場合には,その後に借入金債務が発生したとしても当然には充当されないということを確認しています。
つまり,過払い金発生時点で他の借入金債務が存在していない場合には,同一の基本契約があっても,一連充当計算はできないのが原則であるということです。最三小判平成19年2月13日と併せると,取引分断の場合には,基本契約の有無にかかわらず,一連充当計算できないのが原則であるということになります。
もっとも,最一小判平成19年6月7日は,ここで,例外として「過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意」があれば,一連充当計算できるとしています。「過払金充当合意」と呼ばれています。
もちろん,現実に,貸金業者との間で過払金の充当を認めるような合意がなされるはずはありません。この過払金充当合意とはあくまで法的な擬制です。客観的な事情からして,そのような合意があったのと同様である,あるいは同様に扱ってよい,というように取り扱おうということです。
一連充当計算できるかについては,客観的な事情からみて,この過払金充当合意があったといえるかどうかが問題となってきます。
この判決では,基本契約の内容が,借入限度額内で金員を繰り返し借入れることができたこと,毎月の返済金額は前月の借入金残高を基準とした一定額に定められていたこと,利息も前月の支払い後の借入金元本残高に対する支払日までの期間で計算されていたと認定されています。要するに,一般的な貸金業者との取引の形態です。
そして,このような基本契約であるということは,個々の借入れに対応して個別に返済がなされているというよりも,契約に基づく借入金債務全体に対して返済がなされているといえるから,返済金の充当の対象となるのも借入金債務全体であるとした上で,このような基本契約には,過払金充当合意が含まれていると判示したのです。
例えば,ある月に10万円返済したとします。しかし,この返済は,〇月〇日に借りた1万円,△月△日に借りた1万円・・・に対して個別に返済したというわけではなく,これの個々の借入れの合計である借入金残高100万円に対する返済として支払ったと考えるべきであるということです。
貸金業者との取引は,概ね上記のような基本契約に基づく取引と同様の場合が多いでしょう。したがって,多くの場合,基本契約が同一であれば,過払い金充当合意が認められ,一連充当計算が可能となるということになります。
過払金充当合意
この最一小判平成19年6月7日は,過払金充当合意という理論を用いた最初の判例です。
結果として,過払金の充当を大幅に否定し,批判の多かった最二小判平成19年2月13日を是正するような形になりました。
この判決以降,取引の分断・一連充当計算の問題は,この「過払金充当合意」があるといえるのかどうか,という点が問題となっていくことになります。
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2012年4月21日
カテゴリー:取引の個数・分断・一連計算 過払い金重要判例 過払い金(過払金)
基本契約が締結されていない場合,特段の事情のない限り,一方の取引で発生した過払い金を他の取引の貸付金に充当することは認められないとした判例(最三小判平成19年2月13日)
取引の個数
今回ご紹介するのは,最高裁判所第三小法廷平成19年2月13日判決(最三小判平成19年2月13日)です。
この判決の事案は,同一の基本契約がない2つの取引が併存しており,その一方の取引について過払い金が発生したという事案です。この場合に,この過払金を,他方の取引における貸付金に充当することができるのかが問題となっています。分類するならば,「非基本契約取引併存型」ということになるでしょう。
ただし,この判決の事案は,一方の取引で過払い金が発生した当時には,まだ他方の取引が始まっておらず,過払い金が発生した時点では他の借入金債務が存在していないという事案です。過払いとなっている一方の取引について,過払いとは知らずに返済をしている途中で,さらに他方の借入れもしたというものです。
過払い金発生後に新たな借入れをしているという点で,同一の貸金業者との取引が中断し,一定期間後に再度取引を開始するというタイプ(取引中断型)にも通じるところがあります。
そのため,この判例は,「非基本契約取引併存型」と「非基本契約取引中断型」の両方に通じる判断であると評価されています。
※なお,この最高裁判所第三小法廷平成19年2月13日判決(最三小判平成19年2月13日)は,過払い金の利息の利率についても判断をしています。その点については,「過払い金の利息の利率は年5パーセントであるとした判例」をご覧ください。
結論としては,以下のとおり,基本契約がない取引併存型(非基本契約併存型)や取引中断型(非基本契約取引中断型)の場合には,原則として一連充当計算できないという判断をしています。
最三小判平成19年2月13日
最三小判平成19年2月13日は,以下のとおり判示しています(一部抜粋)。
貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し(以下,この過払金を「第1貸付け過払金」という。),その後,同一の貸主と借主との間に第2の貸付けに係る債務が発生したときには,その貸主と借主との間で,基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返されており,第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されていたとか,その貸主と借主との間に第1貸付け過払金の充当に関する特約が存在するなどの特段の事情のない限り,第1貸付け過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されないと解するのが相当である。なぜなら,そのような特段の事情のない限り,第2の貸付けの前に,借主が,第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定するということは通常は考えられないし,第2の貸付けの以後であっても,第1貸付け過払金の存在を知った借主は,不当利得としてその返還を求めたり,第1貸付け過払金の返還請求権と第2の貸付けに係る債権とを相殺する可能性があるのであり,当然に借主が第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定したものと推認することはできないからである。
→ 上記判決の全文(裁判所HPから)
前記のとおり,この判決は,非基本契約併存型と非基本契約中断型の両方について通用する判断をしていると評価されています。
この判決によれば,この非基本契約併存型及び非基本契約中断型の場合には,原則として,一方の取引で発生した過払い金を他方の取引の貸付金に充当することはできないとしています。
ただし,常に充当計算できないわけではなく,「特段の事情」がある場合には,充当計算できるとしています。そして,その「特段の事情」の例として,「基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返されており,第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されていた」ことや,「貸主と借主との間に第1貸付け過払金の充当に関する特約が存在する」ことが挙げられています。
しかし,実際問題として,中断前の貸付の際に中断後の貸付についても想定している場合など極めて稀でしょう。ましてや,そもそも過払い金が発生しているなど知らないで再度貸付を受けるのですから,借主が中断前の取引で過払い金が発生したら中断後の貸付に充当するなどという特約をするわけがありません。貸金業者は過払いについて知っているでしょうが,わざわざそのような特約をするはずもありません。
つまり,この「特段の事情」はほとんど現実的にあり得ないものということになり,基本契約がない場合には,過払い金の充当がほとんど認められないということになってしまいます。
そのため,この判決には,前回ご紹介した最二小判平成15年7月18日と整合性がないとか,利息制限法の趣旨に反するなど多くの批判がなされました。
確かに,平成15年判決は,基本契約がある場合の判断であり,同一の基本契約があるからこそ,借主が複数の権利関係が生ずるのを望まないのが通常といえ,そのため「弁済当時存在する他の借入金債務に対する弁済を指定したものと推認することができる」ともいえるので,同一の基本契約がない場合には,複数の権利関係が発生する可能性があることを借主自身が分かっているから,上記のような推認はできないということになるかもしれません。
しかし,現実問題として,そこまで契約関係を理解して貸金業者と取引をしているという場合は多くはないでしょう。そのため,そのような現実を踏まえていないという点で,消費者側から批判が起きたのです。
そこで,この判決以降,過払金充当合意の理論など,この判決を是正するような多くの判例が出されることになりました。その意味では,取引の個数に関する現在の錯綜した状況の一因となった判例といえるでしょう。
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2012年4月16日
カテゴリー:取引の個数・分断・一連計算 過払い金重要判例 過払い金(過払金)
基本契約がある場合,併存する一方の取引で発生した過払い金は,弁済当時存在する他方の取引の借入金債務に充当されるとした判例(最二小判平成15年7月18日)
基本契約がある複数の取引における過払い金の充当
ある貸金業者との間で複数の取引があり,そのうちの1つの取引において過払い金が発生した場合,別の併存する取引における貸付金にその過払い金を充当することができるかということが問題となってきます。取引の個数の問題です。
この複数の併存する取引について同一の基本契約がある場合を「基本契約取引併存型」といい,同一の基本契約がない場合を「非基本契約取引併存型」と呼ぶ場合があります。
今回ご紹介する最高裁判所第二小法廷平成15年7月18日判決(最二小判平成15年7月18日)は,この取引が併存している場合のうちで基本契約がある場合(基本契約取引併存型)について判断した判例です。
最二小判平成15年7月18日
最二小判平成15年7月18日は,以下のとおり判示しています(一部抜粋)。
同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けとその返済が繰り返される金銭消費貸借取引においては,借主は,借入れ総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられることから,弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果当該借入金債務が完済され,これに対する弁済の指定が無意味となる場合には,特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に対する弁済を指定したものと推認することができる。また,法1条1項及び2条の規定は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする法所定の制限内の利息の取得のみを認め,上記各規定が適用される限りにおいては,民法136条2項ただし書の規定の適用を排除する趣旨と解すべきであるから,過払金が充当される他の借入金債務についての貸主の期限の利益は保護されるものではなく,充当されるべき元本に対する期限までの利息の発生を認めることはできないというべきである。
したがって,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である。
→ 上記判決の全文(裁判所HPから)
前記のとおり,この判例は,基本契約のある複数の併存する取引における過払い金の充当について判断をした判例です。
これによれば,一方の取引において過払い金が発生した場合,その弁済当時(過払い金発生当時)に他の取引において借入金債務があれば,一方の取引で発生した過払い金は他方の取引の借入金債務に充当されるということになります。
なお,「当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情」がある場合には,この過払金の充当は認められないことになると判示されていますが,現実的に,過払い金が発生することを前提としたそのような特約を貸金業者がすることは考えられないので,実際にはほとんど問題となることはないでしょう。
この判決以降,複数の取引がある場合の過払い金の充当についてさまざまな判例が出されることになります。その意味で,取引の個数の問題において最も重要な判例といえるでしょう。
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2012年4月15日
カテゴリー:取引の個数・分断・一連計算 過払い金重要判例 過払い金(過払金)


